「飯塚幸三を逮捕せよ、中国人は入国禁止にせよ、コロナウイルス感染者は離島に隔離せよ」という主張は全部間違っていると思う

2月6日、「池袋暴走事故 飯塚幸三元院長を在宅起訴 東京地検」というトピックがヤフーニュースに掲載されました。


やっとかー、長かったなー、と思いながら、何の気なしにコメント欄を見てみると、一番共感ボタンを押されているコメントがこんなもの。


「在宅起訴なので逮捕されません。

危険運転致死ではなく過失運転致死です。

容疑者とすら呼ばれなかった「元院長」がようやく、ようやく「被告」になっただけです。

何十万という署名は無力でした。

本当に残念であり怒りが込み上げてきますが、これが今の日本です。」


私、これを読んで頭の中にクエスチョンマークが100個くらい出てきました。在宅起訴なので逮捕されません、とは??? どゆこと???? で、他の人のコメントも見てみて、やっと合点がいきました。この人は、飯塚幸三が逮捕されなかったことを、「残念であり怒りが込み上げて」くると書いているようなのです。つまりこの人は、「逮捕」それ自体が罰である、と認識しているのです。当たり前のことですが、その認識はまったくの誤りです。そしてこの誤った認識のまま書かれているコメントに3万以上の共感ボタンが押されていることにびびりました。これが今の日本です、ってか。笑わせてくれる。


そもそも、飯塚幸三が現行犯逮捕をされなかったのは彼が上級国民だったから、ではもちろんなく、胸の骨を折るなどして緊急入院をしたからです。そして、このことを勘違いしている人が多すぎてまじびっくりしちゃうのですが、逮捕っていうのは刑罰でも何でもなく、「身柄を拘束し、捜査官のいる場所(警察署など)への引致」をあらわすわけです。胸を骨折して入院している90歳近い老人の「身柄を拘束し、捜査官のいる場所(警察署など)への引致」なんて出来るわきゃないのです。というかする意味もないのです。逮捕要件には「逃亡や証拠隠滅の恐れがある」というものがあります。病院で、医師も看護師も警察も目を光らせる中、胸骨を折ったこの爺さんが、逃亡したり証拠隠滅を企てたり、するわけないじゃないですか。 


待てよ原田、飯塚幸三は退院後も逮捕されなかったじゃねえかという反論もあるかもしれません。飯塚が退院後に逮捕されなかった理由を、産経新聞はこのように報道しています。


「飯塚元院長が重傷を負って入院していたため逮捕は見送られていたが、入院中から聴取に応じ、退院後も目白署に出頭したことから、警視庁は逮捕要件に当たる逃亡や証拠隠滅の恐れがないと判断。今後も任意のまま捜査を継続するとみられる。」


「逮捕する必要はない」という判断のまま検察は捜査を続け、ようやく6日、在宅起訴に持ちこんだというわけです。なので「逮捕しなかった」という判断は正当だったということになります。もちろんこれで、飯塚幸三がカルロス・ゴーンのように国外に逃亡した、というようなことがあったのであれば、逮捕をしなかったことを非難すべきですが、事実はそうではないのです。いまだに逮捕逮捕言うとる人たちは一体何を考えているのでしょうか。何度でも言いますが、逮捕は刑罰ちゃうっちゅうねん。あと、いまさら逮捕しても拘留期間が刑から差し引かれるだけですしね。まじ意味なし。


何だかこの飯塚幸三の件もそうなんですが、日本人って本当、ヒステリックな集団だなあと思います。今の新型肺炎についての騒ぎなんてその最たるものではないでしょうか。例えば横浜に停泊中のクルーズ船ですが、あんなんまじ地獄です。そりゃもちろん、コロナウイルスは怖いです。けどさあ。医療設備もろくにない(かどうかは知りませんが、少なくともそれを目的に建設された船ではないわけです)船に閉じ込めて、その船の中でまさにエピデミックが起きてるわけでしょう。「気の毒だけど仕方ない」ですましていいもんなのでしょうか。ものすごく「人でなし」な処置をしているように思えてなりません。


中国人の入国を禁止すべきだとまで、真剣に主張している人も少なくないですが、これも無茶苦茶です。中国ってどれくらいの国土があるかわかって言ってるんですかね? じゃあ、地続きのモンゴルやロシア、韓国の人間も入国を禁止するんですか? もっと言えばスペインやポルトガルだって地続きなわけです。何だか、新型コロナウイルスに感染=一巻の終わり、みたいなイメージが出来上がっていて、必要以上に怖がっているようにしか思えないのです。感染死亡率は中国全土で2.0%と確かに高いのですが、武漢市のある湖北省を除けば死亡率はぐっと下がり0.17%です(2月7日現在)。


(以下、東京新聞の記事より引用)

岡山大の津田敏秀教授(環境疫学)は「武漢の致死率が高い一番の要因は、多くいる軽症者が把握されていないからだ」と指摘する。

武漢市の感染者は約一万人で中国全体の三分の一を占める。「患者が多すぎて医療施設が足りず、重症の肺炎患者が優先して検査を受けて病院に入る。このため軽症者が診てもらえず把握されない。一方、病院にいる人は重症だから亡くなる率も上がる」と津田教授は分析する。軽症患者の実態が把握されれば致死率は下がるとみる。

(引用終わり)


とはいえ、感染力の高いウイルスであることには間違いないですから、国が出来うる限り、個人が出来うる限り、対策は練るべきであると思いますが、新型コロナウイルスだけが怖いわけではない。例えば2009年に発生した新型インフルエンザですが、これって別にまだ、収束したわけではないらしいです。いまだ普通に、流行している。ではなぜ誰も騒がないのか? 慣れたからです。もしくは10年前に騒いでいたころの恐怖を忘れたからです。そんなもんなのです。しかし、当たり前のことですが新型インフルエンザウイルスの感染力や毒性が弱まったというわけではない。放射性物質だってそうでしょう。2011年は多くの日本人が放射性物質の被ばくリスクを考えながら生活していたわけですが、今、そんなことを考えながら毎日暮らす人が果たしてどれだけいるのか。そしてもちろん、放射性物質の被ばくによる健康被害はなくなったわけではない。


“未知のウイルス”という怖さは確かにあります。特に『バイオハザードシリーズ』や『ラスト・オブ・アス』を愛している私のように(ラスト・オブ・アスは今年とうとうパート2が発売されますねうへへ)、「新型ウイルス=終末」みたいな発想をしてしまう人も多いでしょう。実際、治療法が確立されていない新型の病気を端から舐めてかかるのはよくありません。しかし、過剰に怖がるのも同じくらいよくないことだと思います。何故ならその恐怖は、簡単に他者への攻撃性となり、不毛な争いを招いてしまうからです。「中国人は入国させんな」という、時代錯誤も甚だしい発想なんて、その最たるものでしょう。「発症者は離島に隔離しろ」なんてのもありますね。ウイルス性の疾患に隔離治療は必要ですが、なぜ離島。離島に連れてく費用は誰が出すの。病院もしくは自宅でいいやんけ。


「裁判の結果よりも逮捕されたかどうかが重要なのだ」「病人は離島に隔離しろ」「特定の国民を入国禁止にしろ」といった、感情が認識をゆがませたままに物事を主張したって、世界はちっとも面白くなりません。そしてもっと言えば、それらの間違った物言いが、いつか自分や自分の大切な人に向けられないとも限らないのです。


私が心から尊敬する、大川常吉という人のエピソードを引用してこの記事を終わります。


(以下、タウンニュース鶴見区版からの引用)

震災後、関東一円で発生したとされる朝鮮人の虐殺は、被災の混乱した状況の中、「朝鮮人が女性に乱暴し、井戸に毒を入れた」などという流言が出回ったことが原因と言われている。各地で日本刀や竹槍で武装した自警団が朝鮮人を襲ったとされ、鶴見でも同様に、朝鮮人と日本人の間には緊迫した状況が広がっていた。

(略)

そんな混乱の中、当時鶴見警察署署長だった大川常吉は、300人余りの朝鮮人らを同署に保護。抗議する1千人近い群衆を説得し、人命を救ったという。

 大川は、自警団が「毒入りの瓶を持っている」と朝鮮人を鶴見署に突き出せば、「それなら諸君の前で飲んで見せよう」と自ら瓶の中身を飲み、朝鮮人の無実を証明。さらに、「朝鮮人を殺せ」と鶴見署を包囲した約1千人の群衆にも、「彼らも同じ被災者だ。朝鮮人を殺す前に、まずこの大川を殺せ」と訴え、激高を鎮めたという。

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